映画と原作『シチリアを征服したクマ王国の物語』
原作も読んだので、『シチリアを征服したクマ王国の物語』の2回目を原語(オリジナル音声)で観てきました。
日本語吹替もよかったけど、やはり原語版はしっくりきます。映像に自然になじんでいるといいますか。
ヒロインの声が本当に伊藤沙莉さんに似てる(逆ですって)。特に笑い声がそっくり!
映画の感想は前書いたので、原作の話を。
ブッツァーティは好きなのに、これは読んでなかったんですよ。
第一印象は、「ブッツァーティ、こんなのも書くんだ!」。
なにせ、風刺の効いた不条理な話ばかり書いてるイメージがあるので…。
この本は子どものために書いたものなので、すこぶる読みやすい。テンポもよいし、ユニークなキャラクターが次々登場するのも楽しい。
見どころはブッツァーティ自身が描いた挿絵です。カラー口絵もついてる。挿絵まで自分で書いてしまうなんてトーベ・ヤンソンみたいですね。
実はブッツァーティ、画家としても活躍し、絵本も描いてるんだそうです。
映画と原作とのいちばんの違いは、映画に出てくる語り手の旅芸人が原作にはいないこと。映画は枠物語の手法を取っているが、原作は最初から本筋の物語から始まる。映画は観客に謎を投げかけ、「これは誰?」「どうなるんだろう?」と思わせることでうまく話を引っ張っています。
そして、映画ではクマ王子のトニオの扱いが大きくなり、原作より活躍する。これは話のフォーカスを絞る意味でもうまいアレンジだと思いました。
でも、原作には映画に出てこないキャラクターもいるし、詩や口上が挿入されたりする独特の語り口が魅力です。
私的にいちばんのポイントは、翻訳を天沢退二郎さんが手がけていること。
天沢退二郎といえば、フランス文学者であり、和製ファンタジーの傑作『光車よ、まわれ!』の作者であり、現代詩の詩人であり、宮沢賢治研究家であり、熱心な中島みゆきファンでもある、私が少年時代からたいへん敬愛している方。詩人だけに言葉のセンスがすばらしい。
ただ、フランス文学者の天沢退二郎がなぜイタリア作家の作品を訳しているかがふしぎだったのですが、それは「あとがき」に書いてあります。
イタリア語からフランス語に翻訳した本を読んで、ぜひ紹介したいと思っていたら、出版社のほうでも翻訳を検討していて、イタリア民話・伝説・中世文学研究家の増山暁子さんと共同で訳出することになったと。
おかげで、天沢退二郎さんの磨き抜かれた日本語で読むことができるわけですよ。すばらしい。
あとは映画のサントラが出てくれたら言うことないんですが、それは望み薄かな。
新宿武蔵野館での上映は2月24日まで。