鹿の王 ユナと約束の旅
こういうのを「骨太の作品」と呼ぶのでしょうね。
公開から少し経ってしまいましたが、アニメ映画『鹿の王 ユナと約束の旅』を観てきました。
作品世界を生きた気分を体験させくれる…濃厚な映画でした。
堪能しました。
原作は『精霊の守り人』の上橋菜穂子。 けっこう込み入った設定と物語の大作です。それに真正面から挑んで美しくダイナミックなアニメーション映画に作り上げた。そんな印象を受けました。
作画がすごく丁寧で、アクションシーンもさることながら、なにげない芝居や動物の動きがうまい。思わずはっとします。
異世界を構築する美術がすばらしい。懐かしいようで、見たことのない、でもどこかにありそうな世界を中間色の多い柔らかいタッチで描いている。幻想絵画みたいな味があります。
メインのキャラクターを演じているのは、いわゆる声優さんではなく俳優さん。これがすごくよかった。事前にキャストを知らなかったので、「えっ、誰だろう?」と思ってしまいました。けっこう意外でした。
そして、富貴晴美さんの音楽。ヨーロッパでもないし、アジアっぽいけど現実のアジアでもない、架空の世界を描写する音楽ということで、苦心されたのではないかと思います。
民族音楽的な要素を盛り込みつつ、浮わつかず、鳴らしすぎず、でもしっかりとドラマを支えて、かつ耳に残る、絶妙なバランスの音楽になっている。
空想をふくらましていくハリウッド的なファンタジー映画音楽の方向じゃないんですね。異世界で撮ったドキュメンタリー映画の音楽みたいな、現実感のある音楽になっている。かといって地味なわけではない。その塩梅が実にうまいなと思いました。
パンフレットのコメントで富貴さんが音楽作りの工夫を語っています。音楽の柱となる主人公ヴァンのテーマにはトロンボーンを使って、勇ましさと同時に切なさも表現できるようにした。また、ストリングスは低音を強調するためにヴィオラやコントラバスの人数を多めにして録音したそうです。結果、地に足が付いた(変な表現ですが)音楽に仕上がっている。
いっぽうで、神秘的・幻想的なシーンに流れる女声ヴォーカルや合唱を使った音楽も印象的でした。
観に行ったのは休日で、子ども連れのお客さんんもけっこう来ていました。 主人公はおじさんだし、けっこう歯ごたえのある作品なので、子どもたちが飽きちゃうかなと思ったら、ぜんぜんそんなことはなくて、最後までおしゃべりすることもなく観ていました。
なにかしら感じるところがあったのでしょう。
心に残るものがあったらいいなと思います。