「かがみの孤城」ティーチイン上映会
1月22日、新宿ピカデリーで開催されたアニメ映画『かがみの孤城』のティーチイン上映会に行ってきました。
『かがみの孤城』は辻村深月さんの原作小説を原恵一監督がアニメ化した作品。学校に行けなくなった中学生の少女・こころが、鏡の向こうにある孤城に招かれ、6人の少年少女とともに城の中に隠された「望みが叶う鍵」を探す物語です。
異世界冒険ものと思いきや、少年少女の繊細な心理を描く、ファンタジーミステリー。
原作は、『思い出のマーニー』や『秘密の花園』といった児童文学の名作の系譜を継ぐ、みごとな作品。それをアニメならではの表現を使って映像化した原恵一監督の手腕に唸らされます。原監督の作品の中では、同じファンタジーでも『バースデー・ワンダーランド』よりも『カラフル』に印象が近い。富貴晴美さんの音楽も秀逸でした。
劇場ですでに観ていたのですが、今回は、原恵一監督と音楽の富貴晴美さんによるトークセッションということで参加。
予定の時間をオーバーしておよそ45分、貴重な話が聞けました。
原監督と富貴さんのコンビ作品は4作目。話は原監督と富貴さんとの出会いから始まり、本作の音楽のことへ。
メインテーマはなかなか原監督のOKが出ず、12回も書いたそうです。そのときの監督の注文が「あなたはまだ7人の子どもたちの魂を救えていない」というもので、容赦なくハードルを上げる原監督の粘りもすごいし、それに応えた富貴さんもすごい。結果生まれたのが「かがみの孤城」と名付けられたメインテーマです。最初はやさしい曲を書いていたけれど、「救う」という気持ちを前面に出したテーマにしてOKが出たとのこと。
クライマックスには9分以上の長い曲「全員の真実」が流れます。この曲も何度かデモをやりとりして仕上げたそう。途中エレキギターを使うパートがあるのは監督のリクエストだったなど、作曲秘話が語られました。
原監督はアフレコ台本と音楽メニューを持参してきて、そこに書き込まれたメモを見ながら、音楽演出にまつわる裏話を紹介。ダビング時に音楽の音量をカットに合わせて調整したり、音楽が始まる位置を微妙に調整したりする話は興味深く、監督が音楽による演出を非常に繊細に考えていることがわかって有意義でした。
ただ、原監督の話が熱が入りすぎて、富貴さんのコメントがあまり聞けなかったのは少し残念。
観客とのQ&Aでも音楽に関する質問がほとんどなかったのがもったいなかった。
しかし、最後の挨拶のときに富貴晴美さんが「私も学校に行けない子どもだったんです」と話し始めて、聞き入りました。
富貴さん、小学校のときにいじめられていたことがあり、本作の主人公・こころのように朝になると体調が悪くなり学校に行けなくなったそうです。でも、母親は「いやだったら学校行かなくてもいいよ」というすばらしい対応で、毎日うちで映画ばかり、1日に8本も観ていたそう。「だから、今こうやって映画音楽家になれているのかな」と、この日いちばんのいい話が聞けました。
「辛かったら逃げていいんです」という富貴さんの言葉が胸にしみました。