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スターダンサーズ・バレエ団公演「MISSING LINK」

スターダンサーズ・バレエ団公演「MISSING LINK」

3月3日夜、東京芸術劇場プレイハウスで開催されたスターダンサーズ・バレエ団公演「MISSING LINK」に足を運びました。

蓜島邦明さんが音楽を手がけるモダンバレエ(コンテンポラリーダンス)です。

2階の席に着くと開演前から不思議な音楽が流れている。
見下ろすと、オーケストラピットで蓜島さんがキーボード2台とシンセサイザーを並べて音楽を演奏しています。
ステージには「まずは音楽をお楽しみください」と書かれたプラカードを持った出演者の姿が。
客入れから生演奏というぜいたくな趣向でした。

公演は第1部が蓜島さんの新作音楽によるダンス。
蓜島さんとヴァイオリン(高木和弘)による生演奏をまじえた音楽でした。
蓜島さん得意の怖い音楽かと思っていたら、前衛的でおしゃれ。フランス現代音楽のようなサウンドで驚きました。まさに現代のバレエ音楽と言う感じです。

2部の「Degi Meta go-go」は2002年にヨーロッパで公演して大成功を収めた作品の再演。
蓜島さんの音楽は、機械的なビートをバックに展開するノイズ系音楽。インダストリアルミュージック的な趣もある。
ダンサーの踊りが加わるとなかなかシュールで、リアル『世にも奇妙な物語』を観るようでした。

期待どおり、いや期待を上回るすごい音楽でした。
強烈な音楽体験で、頭くらくらしながら帰りました。
舞台作品の音楽は商品化されないことが多いし、直に体験してこそという面もあります。生で聴けてよかったです。

「MISSING LINK」会場のポスター

『マルコ・ポーロの冒険』発掘上映&ゲストトーク

『マルコ・ポーロの冒険』発掘上映&ゲストトーク

2月25日、川口市SKIPシティ内NHKアーカイブスで開催された「『マルコ・ポーロの冒険』発掘上映&ゲストトーク」に行ってきました。

1979年~80年にかけてNHKで全43話が放送されたアニメ『マルコ・ポーロの冒険』の上映とゲストによるトークのイベントです。

『マルコ・ポーロの冒険』はマッドハウス制作のアニメーションと実写の紀行映像を組み合わせた「アニメーション紀行」と冠のついた作品でした。
当時、毎週楽しみに観ていたんですよ。レコードも買いました。
徳間書店からロマンアルバムが発売されてるくらいで、アニメファンの間でもけっこう人気があったのです。

しかし、その後、再放送やソフト化の機会に恵まれず、聞くところによればNHKに保存されているのは第1話と最終話のみ。当時リアルタイムに観ていた人しか覚えてないという残念な状況でした。
それが、近年になって家庭用ビデオに保存されていた映像が徐々に集まり、2020年には音声の入ってない全話の映像がフィルムで発掘されたというニュースが。
https://www.nhk.or.jp/archives/hakkutsu/news/detail282.html

で、今回の上映&ゲストトークです。
いよいよ「集まった映像が観られる日が来たか!」と胸が躍りました。
定員70名のところ、無事抽選に当選して参加してきました。

上映されたエピソードは第4話、第12話、第42話。観るのは放送当時以来。
映像は家庭用ビデオデッキで録画されたものでした。ゴーストが入ったりテロップがにじんだりしてますが、絵も音も案外きれい。十分観られます。

画作りが大胆で劇画的。今のアニメでは観られないスタイルです。当時から「出崎アニメっぽいな~」と思って観てました。キャラクターデザインが杉野昭夫さんだし、入射光がばりばり入ってるし。
今観ると、りんたろう、真崎守っぽいなあと思うところもあり。要はマッドハウスっぽいです。後年の『カムイの剣』とルックスが似てる。

実写部分とアニメとのつなぎが自然でストーリーに違和感なく溶け込んでいることに感心しました。小池朝雄さんのナレーションが効果を上げています。

ゲストも含めた声優さんが豪華。今回上映の3本だと、レギュラーの3人以外に、納谷悟朗、麻上洋子、鈴木弘子、野沢那智らの声が聴ける。
マルコ役の富山敬さんはマルコの少年時代と青年時代とで声と演技を変えていましたね。さすがです。

主題歌・挿入歌の作詞作曲は小椋佳さんですが、劇中音楽は『空飛ぶゆうれい船』の小野崎孝輔さんが手がけています。
編成は厚くないようですが、民族音楽っぽい曲があったり、主題歌・挿入歌アレンジがあったりと多彩。シンプルながら詩情豊かな音楽がなかなかいい。
で、観ていて思ったのですが、これは、全部ではないかもしれないけど、毎回、音楽を録っているのでは? 同じ曲が流れないし、絵と音がみごとに合っている。
NHKは連続ドラマでも90年代まで毎回映像に合わせて音楽を録っているので、ありうることだなぁと。
ほかのエピソードも音楽に注意して観て(聴いて)みたいと思います。

トークは、アナウンサーの渡邉あゆみさんの司会で、ゲストに小椋佳さんとアジア史に詳しい立教大学教授・上田信さんが登壇。
小椋佳さんの主題歌・挿入歌作りの裏話や物語の舞台となる中央アジアの歴史や放送当時の状況などが聞けました。

ちなみに9話しか再放送されないのは、今、権利関係で中国で録った映像が放送できないからだとか。
いつの日か全話が観られることを願ってます。

「プレミアムカフェ」での放送は3月13日~15日の3日間、朝9時から。同日深夜に再放送があります。お見逃しなく~
https://www.nhk.or.jp/archives/hakkutsu/features/202301/

『マルコ・ポーロの冒険』上映&トークの会場に貼られたポスター

追悼・松本零士さん

追悼・松本零士さん

漫画家の松本零士さんが2月13日に亡くなりました。

『宇宙戦艦ヤマト』は自分の人生を変えた大きな作品です。
『ヤマト』がなければ、今の仕事はやってなかったと思うくらい。
それ以前から『少年マガジン』や『COM』『SFマガジン』などで松本零士作品に触れていました。
『宇宙戦艦ヤマト』の放送が始まるとき、「あの松本メカが動くのか!」とワクワクしたことを覚えています。
独特のペーソスのあるSF短編や戦場まんがシリーズが好きでした。

1977年に劇場版『宇宙戦艦ヤマト』が大ヒットし、次々と松本零士原作アニメが制作されました。
なかでも『宇宙海賊キャプテンハーロック』『銀河鉄道999』は音楽的にも後世に大きな影響を残した作品です。
『ヤマト』『ハーロック』『999』がなかったら、今のアニメ音楽はなかったか、違った進化の道筋をたどっていたでしょう。

自分が関わった仕事では、「松本零士音楽大全」で『宇宙戦艦ヤマト』『宇宙海賊キャプテンハーロック』『銀河鉄道999』(TVシリーズ&劇場第1作)を、「銀河鉄道999 エターナル・エディション・シリーズ」で『銀河鉄道999(TVシリーズ)』の構成を手がけたのが大切な思い出です。

たくさんの心に残る作品をありがとうございました。

ご冥福をお祈りいたします。

漫画家・松本零士さん、85歳で死去(Yahooニュース)

菅野祐悟 交響曲第2番@サントリーホール

菅野祐悟 交響曲第2番@サントリーホール

サントリーホールで菅野祐悟さんの「交響曲第2番 “Alles ist Architektur”-すべては建築である」を演奏するというので聴きに行ってきました。

東京交響楽団の第707回定期演奏会。原田慶太楼指揮。

行ってよかった。
さすがサントリーホール。すばらしい音でした。
CDで聴くのとは大違い。

交響曲第2番は「建築」をテーマにした作品。
第1楽章から第4楽章まで、それぞれにサブテーマが割り当てられています。
メインとなるモティーフを提示する力強い第1楽章、躍動的なスペイン風の第2楽章、弦合奏を中心とした抒情的な第3楽章、メインモティーフを反復し、さわやかに雄大に締めくくられる第4楽章。それぞれに聴きごたえがある。

菅野さんは「40分間聴衆を飽きさせない」という純音楽にはめずらしい(?)目標を掲げて作曲に臨んだそうで、そこここに、映像音楽的な耳にひっかかる工夫がほどこされています。2階席で聴いていたので、奥の方でパーカッションが活躍しているようすが確認できました。サウンドトラックみたいに聴こえる部分があるのも楽しいところ。菅野さんが現場でブラッシュアップしてきた技の集大成ともいえます。

東京交響楽団の演奏もすばらしかった。
演奏が進むうちに、オーケストラ全体がひとつの楽器のように聴こえる瞬間があり、うっとりしました。生でオーケストラを聴く醍醐味です。
菅野さんが音で表現しようとした「光」がたしかに見えた気がしました。

プログラムには菅野さんと指揮の原田さん、コンサートマスターの水谷晃さんらとの座談会が掲載されていて、なかなか貴重。

東京交響楽団第707回定期演奏会プログラム

東京交響楽団第707回定期演奏会プログラム・座談会ページ

プログラムは東京交響楽団の公式サイトで公開されているので、Webでも読むことができます。
https://tso.futureartist.net/Symphony2301

終演後、ロビーに現れた菅野さんにご挨拶。

思えば、2007年12月に開催された菅野さんの最初のコンサートもここ、サントリーホールの小ホール(ブルーローズ)だったんですよね。
そのときも聴きに行って、初めて菅野さんにご挨拶した記憶があります。
今回は堂々の大ホール。いわば凱旋公演。
菅野さんの音楽を追いかけてきたひとりとして、感無量です。

フィルフィルコンサート「Musical! Musical!! Musical!!!」

フィルフィルコンサート「Musical! Musical!! Musical!!!」

2月11日、ミューザ川崎で開催されたフィルフィル(Film Score Philharmonic Orchestra)コンサート「Musical! Musical!! Musical!!!」に行ってきました。

タイトルどおり、テーマはミュージカル映画。

『グレイテスト・ショーマン』(2017)
『アラジン』(1992)
『ノートルダムの鐘』(1996)
『オペラ座の怪人』(1986)
『キャッツ』(1981)
『レ・ミゼラブル』(1985)
『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957)

と80年代以降の新しめの作品を中心にしたセレクト。
休憩を挟んで3時間あまり、充実の内容でした。

ディズニーのアニメ映画『アラジン』『ノートルダムの鐘』は組曲でオーケストラ音楽をたっぷり聴かせるフィルフィルらしい構成。
やっぱりアラン・メンケンはいい曲書くなあ。

ミュージカルの音楽はキャッチーで華やかで踊れる曲が多く、客席も盛り上がります。

いちばん驚いたのは歌手やコーラスグループが次々と登場して、ミュージカルナンバーを歌ってくれたこと。
ミュージカル特集だから当然ではあるのだけれど、これまでのフィルフィルコンサートを聴いてきた私は、「おおーっ」と思いましたよ。

フィルフィルといえば『スター・ウォーズ』やジョン・ウィリアムズなどのシンフォニックな音楽が中心で、コンサートでヴォーカル曲を取り上げることはほとんどなかったのです。
今回はがらっと雰囲気が変わりました。聴衆の顔ぶれもこれまでと違う印象で、新しいファンを開拓したのではないでしょうか。

歌という新たな武器を手に入れたフィルフィルはどこへ向かっていくのか。次回も楽しみです!

ストリートオルガンとパネル

フィルフィルオーケストラ1

フィルフィルオーケストラ2

プログラム

「全プリキュア展」に行ってきた

「全プリキュア展」に行ってきた

池袋サンシャインシティで開催中の「全プリキュア展」に行ってきました。

平日昼間なら空いてるだろうと思ってましたが、すごい人出でした。
ほぼ95%が女子。10代~20代くらいの若い方が多い(学校は休みなのか?)。あとは親子連れ。男子はほとんどいない。
六本木で開催されていた『美少女戦士セーラームーン展』と比べても、ぐっと来場者の年齢が若くなり、女子率が高い印象です。

エントランスにフォトスポット(ここで渋滞してた)。
プリキュアの歴史を紹介するパネル。
各シリーズのキャラクターデザイナーたちによる20周年描き下ろしイラストギャラリー(ここも大混雑)。
歴代プリキュア主人公(主にピンク)の等身大フィギュア。
各シリーズを設定画や映像、おもちゃなどで紹介する「全プリキュアメモリーズ」コーナー。
秘蔵ギャラリー(企画書、台本、絵コンテ、原画など。撮影不可)。
変身シーンをマルチモニターで見せるシアター(人ごみでぜんぜん観られず)。
物販コーナー。

といった構成。
「THE仮面ライダー展」ほどではないですが、すごい量の展示でした。

全プリキュア展 フォトスポット

プリキュアヒストリーのパネル

「ふたりはプリキュア」描き下ろし

「プリキュア5」描き下ろし

「ハートキャッチプリキュア!」描き下ろし

「魔法つかいプリキュア」描き下ろし

「スター☆トゥインクルプリキュア」描き下ろし

「デリシャスパーティ・プリキュア」描き下ろし

メインは「全プリキュアメモリーズ」。
各シリーズのブースが作品のモチーフやテーマにちなんだデザインになっていて、なかなか凝ってます。『ふたりはプリキュア』は白と黒、『プリキュア5 GoGo!』はバラ、『ハートキャッチプリキュア!』は花、『スマイルプリキュア!』は本棚、『ドキドキ!プリキュア』はトランプ、『プリンセスプリキュア』は宮殿風、『プリキュアアラモード』はお菓子、『スター☆トゥインクルプリキュア』は宇宙、といった具合。
プリキュアだけでなく悪役キャラの紹介パネルもあって、うれしかったです。

「ふたりはプリキュア」メモリーズ

「プリキュア5」メモリーズ

「ハートキャッチプリキュア!」メモリーズ

悪役パネル1

悪役パネル2

悪役パネル3

「スマイルプリキュア!」メモリーズ

「ドキドキ!プリキュア」メモリーズ

「プリンセスプリキュア」メモリーズ

「プリキュアアラモード」メモリーズ

「ヒーリングっど・プリキュア」メモリーズ

「デリシャスパーティ・プリキュア」メモリーズ

来場者が想い出のプリキュアのコーナーに足を止めて、記念写真を撮ったり、話し込んだりしている光景がほのぼします。
プリキュアの仕事をしていても、本来のターゲットである子どもたちの反応を観る機会はほとんどないので、「ああ、愛されていてよかったなぁ」と。
「全プリキュア展」は、プリキュアとともに育った子どもたちやシリーズを見守ってきた方たちが集う、壮大な同窓会みたいなものですね。

ただ、みんな熱心に観ているので、あまり展示に近寄ってじっくり観られなかった。
ちなみに音楽商品の展示はありませんでしたよ。残念…。

等身大フィギュアは太秦映画村に展示されていたものと同じでした。ということは、今、太秦では主人公を除くプリキュアたちが勢ぞろいしているのでしょう。あれを全部持ってくるには展示スペースが足りないから、しかたないか。でも、ホールをもうひとつ借りて展示したら、案外盛り上がったのではと思います。

プリキュア等身大フィギュア1

プリキュア等身大フィギュア2

プリキュア等身大フィギュア3

プリキュア等身大フィギュア4

スカイプリキュア等身大フィギュア

変身シーンシアター

物販コーナーでは目当ての図録が売り切れ…。
記念に限定グッズのコースターを1個買いました。

プリキュアコースター

「全プリキュア展」東京会場の開催は2月19日まで。
https://www.toei-anim.co.jp/all_precure_exh/

池袋駅からサンシャインシティまでの複数の通りに、「全プリキュア展」にちなんだ街路灯フラッグがずらりと飾られてます。しかも、よく見ると商店街別に違うタイプのフラッグを掲示してる。
風が強かったのと日が暮れてきたので、撮りきれませんでした。コンプリートはまたの機会に(コンプリートするのか?)。

全プリキュア展フラッグ1

全プリキュア展フラッグ2

全プリキュア展フラッグ3

全プリキュア展フラッグ4

全プリキュア展フラッグ5

全プリキュア展フラッグ6

「テス」4Kリマスター版

「テス」4Kリマスター版

映画『テス』4Kリマスター版を観てきました。

1979年公開の英仏合作映画。ロマン・ポランスキー監督。
原作はトマス・ハーディの『ダーバヴィル家のテス』。
19世紀末のイングランドを舞台に、貧しい農家に生まれた娘テスのたどる過酷な運命を描く物語です。

このたび4Kリマスター版が作られ、劇場で特別公開中。

「テス」ポスター

初めて観たのはたぶん80年代。名画座にかかっていたのを観たと思います。
ロマンティックな文芸映画と思って観に行ったので、メランコリックな展開と衝撃的なラストに意表をつかれました。
なにが気に入ったのか、その後、もう一度劇場で観たことを覚えています。
3時間近くある長い映画なのに。
私の中では名作とか感動作というのとはちょっと違う、心にひっかかる映画。青春時代の思い出の1本でもあります。

主演のナスターシャ・キンスキーがひたすら美しい。
彼女を観るための映画と言ってもいいくらい。

もちろんそれだけではなく、19世紀の農村の風景を再現した映像と細部までこだわったポランスキーの演出も見ごたえがある。

今回4Kリマスターされて、さぞ鮮やかな美しい映像になったろうと期待してましたが、けっこう彩度を抑えた渋めの画です。
なにせ青空が見えるシーンがほとんどない。もちろんそれは監督のねらいで、天候もまたテスの運命を暗示しているわけです。
なんといってもポランスキー監督は『ローズマリーの赤ちゃん』を撮った人だから…。牧歌的な情景の中に暗い影が忍び寄って来るような、そこはかとない不安に映画全体が満たされている。最初に観たときも、そこにすごく惹かれた気がします。

映画の記憶っておそろしいもので、何10年ぶりかで観たのに、けっこう細部を覚えていましたね。
先の展開がわかっているので、「ああ、ここが映画的暗示になっている」と気づいて感心することが多かった。

そして、フィリップ・サルドの音楽がすばらしい。
これは初見のときから感動しました。メインタイトルの場面からうっとりします。
「これぞフランス映画音楽!」みたいな、もの悲しく美しいメロディーの曲。演奏はカルロ・サヴィーナ指揮のロンドン・シンフォニー・オーケストラ。
当時、すぐにサントラレコードを買って、愛聴してました。

劇場特典の『スクリーン』の表紙を使ったチラシもゲット。
ポストカードを売ってたので記念に買ってきました。

テス「スクリーン」表紙チラシ

「テス」ポストカード

まだ観られる劇場もあるみたいなので、興味ある方はぜひ劇場で。
https://tess-movie.com/

追悼・天沢退二郎さん

追悼・天沢退二郎さん

詩人・作家・フランス文学者・宮沢賢治研究家の天沢退二郎さんが25日に亡くなりました。
とても残念です。

☆天沢退二郎さん死去 仏文学者、賢治研究
https://www.tokyo-np.co.jp/article/227877

長編ファンタジー『光車よ、まわれ!』は、たしか小学5年生の誕生日に買ってもらった本。
自分で選んだのではなく、「本屋の店員がこれがいいと言っていた」と親が買ってきたのです。
一読、衝撃を受け、以来、愛読書になりました。

その後、ファンタジー「オレンジ党」シリーズや幻想童話集『夢でない夢』、長編『ねぎ坊主畑の妖精たちの物語』などを追いかけて読み、天沢さんの現代詩や評論、翻訳にも手を伸ばしました。

『少年と川』『マリクロワ』など、フランスの作家アンリ・ボスコの作品を読んだのも天沢さんが翻訳を手がけていたから。

大人になってから宮沢賢治をちゃんと読んだのも天沢さんの影響。

天沢さんの幻想文学論や詩人ならではの言葉のセンスには大いに刺激を受けました。

2004年に『光車よ、まわれ!』のハードカバーが復刊されたとき、トークイベントに行ってサインをもらいました。
奥様でイラストレーターのマリ林さんからも一緒に。
「子どもの頃からのファンです」とご挨拶できたのが大切な思い出になりました。

生涯忘れられない読書体験をありがとうございました。
どうぞ安らかに。

☆【評伝】天沢退二郎さん 圧倒的に熱く語った宮沢賢治「宇宙人にも感動してもらえるように」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/227962

夢でない夢

「かがみの孤城」ティーチイン上映会

「かがみの孤城」ティーチイン上映会

1月22日、新宿ピカデリーで開催されたアニメ映画『かがみの孤城』のティーチイン上映会に行ってきました。

『かがみの孤城』は辻村深月さんの原作小説を原恵一監督がアニメ化した作品。学校に行けなくなった中学生の少女・こころが、鏡の向こうにある孤城に招かれ、6人の少年少女とともに城の中に隠された「望みが叶う鍵」を探す物語です。

異世界冒険ものと思いきや、少年少女の繊細な心理を描く、ファンタジーミステリー。
原作は、『思い出のマーニー』や『秘密の花園』といった児童文学の名作の系譜を継ぐ、みごとな作品。それをアニメならではの表現を使って映像化した原恵一監督の手腕に唸らされます。原監督の作品の中では、同じファンタジーでも『バースデー・ワンダーランド』よりも『カラフル』に印象が近い。富貴晴美さんの音楽も秀逸でした。

劇場ですでに観ていたのですが、今回は、原恵一監督と音楽の富貴晴美さんによるトークセッションということで参加。
予定の時間をオーバーしておよそ45分、貴重な話が聞けました。

原監督と富貴さんのコンビ作品は4作目。話は原監督と富貴さんとの出会いから始まり、本作の音楽のことへ。

メインテーマはなかなか原監督のOKが出ず、12回も書いたそうです。そのときの監督の注文が「あなたはまだ7人の子どもたちの魂を救えていない」というもので、容赦なくハードルを上げる原監督の粘りもすごいし、それに応えた富貴さんもすごい。結果生まれたのが「かがみの孤城」と名付けられたメインテーマです。最初はやさしい曲を書いていたけれど、「救う」という気持ちを前面に出したテーマにしてOKが出たとのこと。

クライマックスには9分以上の長い曲「全員の真実」が流れます。この曲も何度かデモをやりとりして仕上げたそう。途中エレキギターを使うパートがあるのは監督のリクエストだったなど、作曲秘話が語られました。

原監督はアフレコ台本と音楽メニューを持参してきて、そこに書き込まれたメモを見ながら、音楽演出にまつわる裏話を紹介。ダビング時に音楽の音量をカットに合わせて調整したり、音楽が始まる位置を微妙に調整したりする話は興味深く、監督が音楽による演出を非常に繊細に考えていることがわかって有意義でした。
ただ、原監督の話が熱が入りすぎて、富貴さんのコメントがあまり聞けなかったのは少し残念。
観客とのQ&Aでも音楽に関する質問がほとんどなかったのがもったいなかった。

しかし、最後の挨拶のときに富貴晴美さんが「私も学校に行けない子どもだったんです」と話し始めて、聞き入りました。
富貴さん、小学校のときにいじめられていたことがあり、本作の主人公・こころのように朝になると体調が悪くなり学校に行けなくなったそうです。でも、母親は「いやだったら学校行かなくてもいいよ」というすばらしい対応で、毎日うちで映画ばかり、1日に8本も観ていたそう。「だから、今こうやって映画音楽家になれているのかな」と、この日いちばんのいい話が聞けました。
「辛かったら逃げていいんです」という富貴さんの言葉が胸にしみました。

フォトセッション1

フォトセッション2

映画『かがみの孤城』オリジナル・サウンドトラック

ジャケット画像

エンニオ・モリコーネ 映画が恋した音楽家

エンニオ・モリコーネ 映画が恋した音楽家

観ました!

映画『エンニオ・モリコーネ 映画が恋した音楽家』

2020年に亡くなった作曲家・エンニオ・モリコーネの生涯を描いた映画。
上映時間157分。
観る前は「長いか?」と思ったけど、ぜんぜんそんなことなかった。
あっという間でした。

モリコーネの少年時代からアレンジャー時代、映画音楽デビュー、そして、数々の作品を生み出して世界的人気を得るまでを、インタビューとドキュメント映像と映画の映像でたどる構成。
ジョゼッペ・トルナトーレ監督の編集のうまさもあって、まったく飽きない。

モリコーネの最期5年間に密着した映像、モリコーネを敬愛する監督、作曲家、音楽家らのインタビュー、そして、モリコーネが担当した映画の映像が巧みな編集で繋げられ、実にスリリングで刺激的。
モリコーネが監督とどんな話をしたか、どんな発想で音楽を作ったか、映画音楽と純音楽の関係についてどう考えていたか、など、創作の秘密にも迫った映画音楽ファン必見の内容です。

今、「モリコーネの魅力」と問えば「美しいメロディー」と誰もが言いそうですが、モリコーネ音楽のルーツには現代音楽(実験音楽・前衛音楽)がある。それもしっかり押さえられていてよかった。

それにしても、名だたる監督の映画の映像がふんだんに登場することのぜいたくさよ。
トルナトーレが本作を監督するにあたってプロデューサーに最初に頼んだことが、「モリコーネが関わった映画のシーンを自由に使わせてほしい」ということだったとか。静止画ではなく、映画の映像と音声がたっぷり挿入されている。
『荒野の用心棒』『シシリアン』『1900年』『ミッション』『ニュー・シネマ・パラダイス』『アンタッチャブル』といった著名な名作から、『アルジェの戦い』『ポケットの中のこぶし(握り拳)』『死刑台のメロディ』といった渋い作品まで幅広く紹介されていて感動しました。
これも観た、これも観た、これはサントラだけ聴いた、とか、いちいち記憶が掘り返されます。
観たことも聴いたこともない(私にとっては)珍しい作品も登場。
タイトルだけ知っていて、「これがあの作品かぁ」と思うこともしばしば。

あちこちで言ったり書いたりしてることですが、小学生のときにラジオから流れてくるモリコーネの音楽を聴いてなかったら、そして、モリコーネのベストアルバムを買わなかったら、サントラファンになってなかったかもしれない。
もう50年もモリコーネの音楽を聴いてきたことになります。
ありがとうモリコーネ。

映画の中では当然ながら、モリコーネの音楽がずっと鳴っている。音楽録音やコンサートなどの演奏風景もたっぷり紹介される。
モリコーネの音楽に包まれ、映画の記憶に心満たされる至福の時間でした。

パンフレットには富貴晴美さんの作曲家ならではの視点のコメントが載っていて、これを読むだけでも買う価値あります。

『エンニオ・モリコーネ』パンフレット

☆映画『エンニオ・モリコーネ 映画が恋した音楽家』公式サイト
https://gaga.ne.jp/ennio/