『Do It Yourself!!』のすごいところ
あまり話題になってないけど、今放送中のアニメで私がいちばん楽しみにしているのが、『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』なのです。
https://diy-anime.com
新潟、三条市を舞台に、DIY部に集う高校生の少女たちがものづくりを通して友情を深め、成長していく物語。
まず、ものづくり(工作)を題材にしているのがいい。
私も子どもの頃から工作大好き。『まんが道』を読んで幻灯機を作ったり、自作のおもちゃを作ったりしていた。もちろん模型もよく作ったし、宇宙戦艦ヤマトの最初のプラモデルが出たときは、艦底のゼンマイボックスを切り取り、テレビで観るプロポーションとディテールに寄せて改造したりした。
『Do It Yourself!!』では「材料を集めて、加工して、組み立てる」という過程が丁寧に描かれていて、工作心をくすぐられる。
それに、できあいのものですまさず、「ほしいものは作ればいい」の精神でものづくりに取り組む彼女たちの姿は、人生の指針にもなっている。
それから、なにげにこの作品、絵作りのレベルが高い。
レイアウトにセンスがある。構図がびしっと決まっている。空間の捉え方が的確で、演出効果も考えられている。あおりや俯瞰の構図がたびたび出てくるけれど破綻がない。技術が高く、クレバーなレイアウトです。
そして、作画がいい。ズバリ言って絵がうまい。シンプルな線なのに、デッサンがしっかりしていて、ちゃんと骨格と立体感が感じられる。
特に手と腕の描き方がうまい。手を描くのってめちゃ難しいんですよ。形が複雑だし、誰もが見慣れているので、絵が崩れたりごまかしたりするとすぐにわかる。本作には工具を使う手の描写がたくさん出てくるけど、どのカットもさまになっている。観ていて思わず「うまいなぁ」と感心してしまう。ものづくりがテーマの作品なので、工作する手の描写にリアリティがあることが物語の説得力につながっています。
色彩設計もいい。明るくカラフル。ほとんど影を使わないのもさわやかで好印象。髪の毛の内側が意表をつく色で塗られているのも面白い。
とにかく、観ていて気持ちがいい、刺激を受ける作品です。
音楽については、最近の作品には珍しく、オープニング主題歌とエンディング主題歌と劇中音楽(劇伴)を佐高陵平さんがすべてひとりで担当しているのがすばらしい。擬音(オノマトペ)を使ったオープニングが秀逸。サントラ盤が来年2月に出るんだそうです。今から楽しみにしてます。
※場面写はモニターをiPhoneで撮っているのでモアレが出ているのはご愛敬。
ワルツ ~カミーユ・クローデルに捧ぐ~ 第二章
11月13日の夜、恵比寿のスタジオアッシュ(Studio H)で坂田晃一先生が音楽を担当した舞台「ワルツ ~カミーユ・クローデルに捧ぐ~ 第二章」(作・演出:宮本尚子)を観てきました。
女性彫刻家カミーユ・クローデルを題材にした朗読とパフォーマンスと音楽による舞台です。
ロダンの弟子、そして恋人となり、彫刻家として活躍したカミーユ・クローデルは、ロダンとの関係が破綻したのち心を病み、30代から78歳で亡くなるまでを精神病院ですごしました。
その精神病院でのカミーユの後半生が描かれます。
出演者は3人だけ。
カミーユ(木村有岐)と修道女(福田好)、そして歌手(柴田英恵)。歌手は芝居にはからまず、コロスのような役割です。
カミーユと修道女のあいだにもセリフのやりとりはない。歌と朗読とモノローグだけで話が進みます。
タイトルに「第二章」とあるように、カミーユの人生の前半も舞台になっているようですが、そちらは未見。 しかし、第二章だけでも完結した作品になっているので十分楽しめました。
会場はふだんはダンスの練習などに使われている小さなスタジオ。 舞台装置は椅子を4つ並べ、天井から白いドレスを吊るしただけ。 周囲の壁際に観客用の椅子が並べられて、俳優に手が届くくらいの近さで鑑賞するようになっている。
そのため、ものすごい臨場感です。
役者の息づかいや肉体の緊張が伝わってくる。
すばらしかった。感銘を受けました。
カミーユと修道女の人生を間近で観ているような気持ちを味わいました。
坂田晃一先生の音楽もすばらしい。過去の公演では坂田先生自身のチェロを含むストリングスとピアノで生演奏されていたそうですが、今回は会場の小ささや感染対策を考慮してか、録音された音になってました。 それはちょっと残念だったのですが、歌だけは生でした。
美しくもの悲しい旋律と歌声がカミーユの孤独と哀しみを代弁して胸に刺さります。
映画『カミーユ・クローデル』のガブリエル・ヤレド(ヤーレ)による音楽もよかったけど、坂田先生の音楽も絶品。
実はサントラ盤も通信販売されてます。
https://shop.waltzproject.com/items/39831524
そのサントラ盤では過去の公演で流れた男声ヴォーカル(坂下忠弘)による歌が収録されているのですが、今回は女声ヴォーカルによる歌唱。
このほうが劇の主題に合っている気がします。
女声ヴォーカル版のサントラも出してほしいなぁ。
帰り際、坂田先生がいらしたので久しぶりにご挨拶。
お元気そうでなによりでした。
エンニオ・モリコーネ オフィシャル・コンサート・セレブレーション
11月6日、有楽町・東京国際フォーラムAホールで開催された「エンニオ・モリコーネ オフィシャル・コンサート・セレブレーション」の最終公演を聴きました。
モリコーネのコンサートを聴くのは2004年6月のエンニオ・モリコーネ来日コンサート(「エンニオ・モリコーネ in JAPAN」)以来かも。その間に『ニュー・シネマ・パラダイス』シネマコンサートを鑑賞しましたが(これはすごくよかった)、モリコーネ作品を集めたコンサートは聴いてなかったと思います。
別のところで書いたことがありますが、モリコーネは私が映画音楽を聴くようになるきっかけとなった作曲家のひとり。思えば、50年くらいモリコーネを聴いてきたことになります。そして、モリコーネは2020年に91歳で死去。追悼の想いを胸にコンサートに足を運びました。
10列目の左寄りという恰好の席。ピアニストやハープ奏者の手の動き、指揮者の動きもじっくり見られる。音も大きすぎず、偏らず、よいバランスで聴けました。
コンサートのセットリストはモリコーネが生前考えていたもの。
息子のアンドレア・モリコーネが引き継いで、指揮を担当。アンドレアが指揮することもモリコーネの希望だったとか。
オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。
イタリアから、ピアノ(レアンドロ・ピッチョーニ)、ドラム(マッシモ・ダゴスティーノ)、ベース(ナンニ・チヴィテンガ)、ギター(ロッコ・ジファレッリ)、ソプラノ(ヴィットリアーナ・デ・アミーチス)、それに合唱指揮者(ステファノ・クッチ)とサウンドエンジニア(ファビオ・ヴェンチュリ)も来日して、モリコーネの音を再現します。
第1部が高揚感たっぷりの「正義の力」(『アンタッチャブル』)から始まるのが最高。冒頭から気分が上がりました。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『海の上のピアニスト』とおなじみの名作が続いたあと、マフィアを描いたフィルム・ノワール『シシリアン』が登場するのがうれしい。超好きな作品です。
『ある夕食のテーブル』でぐっとおしゃれなムードになったあと、セルジオ・レオーネ監督作品のコーナー。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ウエスト(ウエスタン)』、『続・夕陽のガンマン』『夕陽のギャングたち』からの選曲。ドラム、ギター、ベース、ソプラノが大活躍。
ここまでが第1部。
東京フィルハーモニーの演奏は丁寧だけど、ダイナミックさがいまひとつの感じ。特にマカロニウエスタンの曲はリズムセクションやソロ楽器に負けている…
と感じたけれど…
第2部は驚くほどよくなっていました。演奏よりPAの調整の問題だったのかも?
2部はチェロデュオ「2CELLOS」のステファン・ハウザーが演奏する「エンニオのテーマ」から。これはモリコーネの作品ではなく、ハウザーがモリコーネをトリビュートして書き下ろした新曲です。映像によるハウザーの演奏とステージ上のレアンドロ・ピッチョーニの生ピアノとの共演でした。
2曲目は『ヘイトフル・エイト』のメインテーマ。
この曲では、オリジナル・サウンドトラックのレコーディング風景がスクリーンに映し出され、映像の中のミュージシャンの指の動きとオーケストラの演奏がシンクロするという超絶的な場面が見られました。
『プロフェッショナル』『ニューシネマ・パラダイス』『マレーナ』と人気作品が続いたあとは、「Social Cinema(社会派映画)」のコーナー。
この選曲がなかなか渋い。「美しいメロディ」のモリコーネ目当てで来ている方は意表を突かれたかも。
『アルジェの戦い』『殺人捜査』『ケマダの戦い』はまだしも、『供述によるとペレイラは…』や『労働者階級は天国に入る』は私も映画を観たことがない。モリコーネのベスト盤にもなかなか入らない曲だし(しかしコンサートではたびたび演奏されている)。
シリアスな曲調と緊張感たっぷりの演奏が胸に刺さります。
この並びだと『死刑台のメロディ』は入らないの?と思ったけど、それはあとに取っておかれていたのでした。
最後は『ミッション』のコーナー。
「ガブリエルのオーボエ」「フォールズ(滝)」「オン・アース・アズ・イット・イズ・イン・ヘブン(地上の楽園)」の3曲。
オーボエの妙なる音色、合唱とオーケストラの盛り上がり。締めくくりにふさわしい演奏でした。
アンコールになり、オルガンの前奏が流れ始めた瞬間、『死刑台のメロディ』!と心の中で叫びましたよ。
『死刑台のメロディ』は、中学生くらいの頃、エンニオ・モリコーネを聴き始めて間もない時期に出会った作品(ベスト盤に入っていた)。主題歌「勝利への賛歌」はジョーン・バエズの歌唱が心に響く名曲で、ふと気が付くと口ずさんでいたりします。だいぶあとになってから映画を観て、すごく辛い、考えさせられる映画だと知りました。
余談ですが中島みゆきの「世情」と「勝利への賛歌」が私の中では重なっています。
アンコールではオーケストラと混声合唱で演奏されましたが、ソプラノのヴィットリアーナ・デ・アミーチスが歌ってくれてもよかったのになぁとちょっと思いました。
さらにアンコールは続き、第1部のラストの曲「エクスタシー・オブ・ゴールド(黄金のエクスタシー)」を再演。1部の演奏は物足りなかったけれど、アンコールの演奏はよかった。オーケストラ、リズムセクション、合唱、ソプラノが一体となって怒涛のようにクライマックスになだれ込む。圧巻です。
アンコールの3曲目は「オン・アース・アズ・イット・イズ・イン・ヘブン(地上の楽園)」を再演。スクリーンにはエンニオ・モリコーネの幼い時からのポートレイトが映し出される。あらためて、エンニオ・モリコーネがもういないことを想って、しみじみしました。
よいコンサートでした。
ありがとう、エンニオ・モリコーネ。
2004年の「エンニオ・モリコーネ in JAPAN」のときはオリジナルTシャツなんか売ってましたが、今回の物販はCDのみ。
記念に「モリコーネ・プレイズ・モリコーネ[完全版]」を買いました。以前出たものとは曲順が異なり(コンサート通りの曲順に変更)、ボーナストラックを4曲追加した改訂版です。
映画『時には昔の話を』
映画『時には昔の話を 森山周一郎 声優と呼ばれた俳優』
https://tokiniha.ver-bijou.com
アップリンク吉祥寺で観てきました。
俳優・声優の森山周一郎さんのドキュメンタリー映画です。
(森山さんは声優と呼ばれることを好まなかったそう)
完成・公開は森山さんが亡くなったあとになってしまいましたが、もともとは森山さんの証言を残すために企画された作品。
生前の森山さんのインタビュー映像がたっぷり観られます。
先日観た『その声のあなたへ』同様に黎明期の吹替の話が聞けて興味深いですが、それ以上に森山さんが語る激動の芝居人生がすごく面白い。
劇団東芸が立ち上がり、森山さんがそこに参加して役者として活躍を始める。
舞台は私もなじみ深い高田馬場。
森山さんが思い出の土地をめぐる場面があり、「あー、あそこか!」と思うことしばしば。
森山さんと関わった方々へのインタビューも森山さんの人柄が偲ばれてしみじみとします(笑えるエピソードも多し)。
上映後、小原正至監督と音楽を担当したシンガーソングライターのサカノウエヨースケさんのトークがあり、音楽作りの裏話が聞けて貴重でした。
監督と細かくやりとりしながら作っていったとか。
監督がテンプトラック(仮の曲)を付けていたシーンにサカノウエさんがけっこう攻めた曲を付けたら、監督が曲に合わせて編集を変えたとか。
メインテーマはサカノウエヨースケさんがオリジナル曲として発表していた「NEW HOPE」をアレンジした曲だそうです。
主題歌は加藤登紀子さんが『紅の豚』の主題歌「時には昔の話を」を新録音。その経緯はパンフレットに書かれています。 パンフレットの表紙は小原正至監督が描いたイラスト。アニメ映画も作る方なので絵もうまい。
アップリンク吉祥寺での上映は11月3日までなので、気になる方はお早目に。
小原監督(左)とサカノウエヨースケさん(右)
劇場に展示されている『風の谷のナウシカ』と『紅の豚』のビジュアルボード
(森山周一郎、加藤登紀子、島本須美のサイン入り)
パンフレットの表紙
以下余談。
字幕で「プロデューサーの鏡」って表記されてたのが気になりました。
わざと? 「鑑」の誤記でしょうね。
サカノウエヨースケさんは「ドキュメンタリーの劇伴」という言い方をしてました。 ドキュメンタリーだと「劇伴=劇の伴奏」でない気がしますが、やっぱり現場ではそう言いますよねー。「サウンドトラック」が本来の意味を離れて背景音楽をさす言葉として定着したようなもので。
映画『その声のあなたへ』
映画『その声のあなたへ』を劇場で観ました。
2013年に亡くなった声優・俳優の内海賢二さんの人生をたどったドキュメンタリー(一応)映画です。
内海賢二さんといえば、『魔法使いサリー』のサリーちゃんのパパをはじめ、『新造人間キャシャーン』のブライキング・ボス、『ガンバの冒険』のヨイショ、『Dr.スランプ アラレちゃん』の則巻センベエなど、数々の個性的なキャラクターを演じた方。吹替洋画世代の私は、スティーブ・マックイーンの吹替や007シリーズの悪役の声(007本人も演じてるけど)が記憶に焼き付いています。
映画『その声のあなたへ』はレジェンドから若手まで、声優や音響監督が内海賢二の仕事ぶりと人柄を語る内容。その証言から、黎明期から現在までの「吹替」の歴史も浮かび上がってきます。
大変貴重な証言が聞けるし、内海さんがいかに愛されていたか、また人を愛したかも知ることができて感動的です。
しかしこの映画、ドキュメンタリーではあるけれど、聴き手はアニメイトタイムズの記者・結花という架空の人物であるという複雑な構造。
『永遠の0』みたいな構成で、内海賢二さんに興味を持った結花が取材を始めるというストーリーじたてになってます。観ているうちに気にならなくなるのですが、フィクションなのかドキュメントなのか、最初のうちはちょっと混乱します。
まあ、正攻法のドキュメンタリーだと、もっと普段着のインタビューというか、照明や衣装なども気を使わない方がリアルになるので、これはこれで映画的でよかったかもしれません。
結花を演じるのは、自身も賢プロダクション(内海賢二が立ち上げたプロダクション)に所属する声優の葵あずささん。映画の冒頭に『魔法陣グルグル』をみて声優にあこがれる少女の姿が描かれますが、これはフィクションではなく葵あずささん本人の思い出を再現したものらしいです。映画が進むにつれ、葵あずさが演じる結花なのか素顔の葵あずさなのか、境界があいまいになっていきます。
いっそ「葵あずさが聞く内海賢二」というドキュメンタリーにしたほうがよかった気もしますね。
内海さんが出演した作品の映像の引用などもあり、そのままパッケージにはできないかもしれないので、気になる方は劇場でぜひ。
☆内海賢太郎×榊原有佑監督『その声のあなたへ』対談インタビュー〈前編〉
☆内海賢太郎×榊原有佑監督『その声のあなたへ』対談インタビュー〈後編〉
特別展アリス
森アーツセンターギャラリーで開催されている「特別展アリス— へんてこりん、へんてこりんな世界 —」に行ってきました。
先日、「ベルサイユのばら展」に行ったとき、隣の会場で開催していたので気になってたのですよ。
気が付けば10月10日の会期終了が迫っていたので、今行くしかないと。
以下、公式サイトより引用。
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『不思議の国のアリス』の世界とその魅力をご紹介する展覧会です。ジョン・テニエルの挿絵から、ディズニー映画のアニメーションセル、ティム・バートン監督による映画『アリス・イン・ワンダーランド』、アリスに影響を受けたサルバドール・ダリや草間彌生らの作品、バレエなどでの舞台衣装、ヴィヴィアン・ウエストウッドらによるファッションなど、アリスにまつわる約300点の展示物が一堂に会します。英国ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)を皮切りに世界巡回中の展覧会に、日本オリジナル展示も加えた「へんてこりん、へんてこりんな世界」が2022年夏、六本木ヒルズに出現します。
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ちょっとスケジュール的に厳しかったのですが、行ってよかった。
児童文学好き、幻想文学好き、美術好き、映画好きなんかにはたまらない内容でした。
なお、会場内は一部「撮影禁止」のマークが付いた展示品以外は撮影可。
ただし、展示品1点のみ、2点のみの撮影は不可で、「必ず3点以上を画面に収めてください」という制限が設けられています。
会場は大きく5つのパートに分かれていて、「第1章 アリスの誕生」ではルイス・キャロルと原作関連の写真、草稿、イラスト、本やグッズなどを展示。
キャロルが撮った写真やアリスのモデルになったアリス・リドゥルの写真もあります。
『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の初版本や校正刷り、ジョン・テニエルの挿絵の習作、原画、版画、各国のアリス翻訳本などが見られて眼福。スワヒリ語版なんて珍しいものもありました。
日本のものでは金子國義さんのアリスの絵などが展示されていました。
不思議の国に迷い込んだような回廊を抜けると、「第2章 映画になったアリス」のコーナーへ。 古今の『アリス』の映像化作品に関する展示です。
初期のモノクロ映画から、有名なディズニーのアニメ、ティム・バートンの『アリス・イン・ワンダーランド』も。
日本アニメーション制作のTVアニメ『ふしぎの国のアリス』ももちろん紹介されています。
続いては「第3章 新たなアリス像」のコーナー。
アリスを題材にした、あるいはアリスにインスパイアされた現代アートの展示です。
衝撃を受けたのが、サルバドール・ダリが描いた『不思議の国のアリス』の挿絵。1969年に限定2500部の署名入りで出版されたんだそうです。 ダリがそうとう気合入れて描いているのが伝わってくる作品。
「対決!シュールレアリスム×シュールレアリスム」
みたいで、見入ってしまいました(撮影は不可)。
次は「第4章 舞台になったアリス」のコーナー。
舞台化された『アリス』のポスターや舞台写真、衣装デザインなど、貴重な展示が並びます。
最後に「第5章 アリスになる」と題した、アリスをモティーフにしたファッションのコーナー。
文学・アート・映画・演劇・ファッションなどを横断する不思議の森をさまようような体験。
めちゃめちゃ楽しかったし、刺激を受けました。
図録はなく、7月8日に発売された『アリスーへんてこりん、へんてこりんな世界―』(玄光社)という本が公式書籍として売られています(一般書店でも購入可)。内容は、展覧会とまったく同じではないようです。
「特別展アリス— へんてこりん、へんてこりんな世界 —」は10月10日まで。
https://alice.exhibit.jp
ベルサイユのばら展
少し前のことになりますが、六本木・東京シティビューで開催中の「誕生50周年記念 ベルサイユのばら展 -ベルばらは永遠に-」に行ってきました。
会場入ってすぐのスカイギャラリーが宮殿のようにディスプレイされていて、「ベルばら」気分が盛り上がります。
導入部の回廊に展示されているのが「ベルばら年表」。
原作連載から始まって、各種単行本発売、舞台公演、実写映画公開、アニメ放映、DVD発売、Blu-ray発売、ムック発売、DVD-BOOK発売、コラボイベントなど、細かく記載されています。
21世紀に入ってからのドラマCD発売やアニメ版サウンドトラック完全版の発売も押さえられていて、そうとうのベルばらマニアの仕事か、と感心しました。私が企画・構成・解説を手がけたCD「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」の記載もありました。
メインは池田理代子先生の原画展示。
1色だけでなく、2色、4色の原稿も展示されているのがいい。美しく迫力たっぷりの絵に引き込まれます。
撮影は不可。
続いて、宝塚歌劇版「ベルばら」とアニメ版「ベルばら」のコーナー。
コンパクトですが、ツボを押さえた展示でファンも納得の内容。
アニメ版は設定画、台本、原画、セル画、ハーモニーなどを展示。解説パネルで、原作とアニメ版の違い、2人の監督の演出の違い、アニメ版ならではの魅力などに触れていて、「わかってるな…」と唸らされました。
宝塚歌劇のコーナーのみ撮影可です。
最後に「これからのベルばら」のコーナー。
最新情報として、新作アニメ映画の設定画が数枚展示されています。さて、どうなるか、興味津々です。
この新作アニメ映画関連も撮影可でした。
なお、展覧会の図録はなく、9月15日に発売された書籍『愛と感謝の50周年 ベルサイユのばら アニバーサリーブック』(集英社刊)が図録代わりになっています(展覧会の内容そのままではありません)。
会場に隣接するカフェではコラボメニューが楽しめる「ベルサイユのばら CAFE」も開店中です。
「ベルサイユのばら展」東京会場の開催は11月20日まで。
https://verbaraten.com/
渡辺俊幸 シンフォニック・ガラ・コンサート
9月21日に東京芸術劇場大ホールにて開催された「渡辺俊幸 シンフォニック・ガラ・コンサート ~音楽家活動50周年の祝典~」に足を運びました。
すばらしかったです。
堪能しました。
渡辺俊幸さんの映像音楽と編曲作品を中心にしたプログラム。
プロデュースが盟友さだまさしさん。
演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。俊幸さん自身の指揮。
大河ドラマ『毛利元就』(1997)、『利家とまつ』(2002)、朝の連続テレビ小説『おひさま』(2011)と、開幕からNHK作品が続く私好みの選曲。
『おひさま』は劇中曲もメドレーで聴かせて、平原綾香さんが歌う主題歌に続く構成。平原さんの生歌で「おひさま~大切なあなたへ」を聴くのは初めてかも。フルオーケストラをバックにした歌唱が圧巻でした。
さらに、平原綾香さんの代表曲「Jupiter」を俊幸さんによる新アレンジで。導入部にホルストの「惑星」のスコアが織り込まれていて、実にドラマティックで壮大な「Jupiter」になっていました。
続いては先ごろ亡くなった渡辺宙明先生(俊幸さんのお父様)の追悼コーナー。「マジンガーZ」「秘密戦隊ゴレンジャー」「宇宙刑事ギャバン」を俊幸さんの編曲で。歌は洗足学園音楽大学の学生たちによるメモリアル合唱団。「マジンガーZ」は映画『マジンガーZ/INFINITY』ヴァージョン。「ゴレンジャー」と「ギャバン」は全くの新編曲で、ジョン・バリー風のスパイ映画っぽいムードがある「ゴレンジャー」、女声合唱が入って壮大な「ギャバン」と、俊幸さんならではのサウンドと宙明メロディの共演に胸が熱くなります。
1部の最後はNHKドラマスペシャル『大地の子』(1995)の音楽。つい先ごろも何度目かの再放送をしていた名作です。温かく雄大なメロディがオーケストラサウンドに映えます。
休憩をはさんで、2部はさだまさしさんの歌から。「主人公」と「風に立つライオン」の2曲。「風に立つライオン」は短編小説か映画みたいなドラマのある歌で、聴くうちにぐっときてしまいました。
次は俊幸さんが手がけたアニメ音楽のコーナー。『新幹線変形ロボ シンカリオン』(2018)と『宇宙兄弟』(2012)の音楽をそれぞれメドレー(組曲)で。大河ドラマとはひと味違う、アクティブで高揚感のある曲想にわくわくします。『宇宙兄弟』といえばエレキギターのサウンドが特徴なのですが、今回はシンフォニック・コンサートということでエレキはなし。宇宙の広大さと宇宙への憧れが強調された印象で、新鮮でした。
ラストはNHKスペシャル『ローマ帝国』(2004)のために書いた曲を俊幸さん自身がコンサート用に構成・編曲した組曲「ローマ帝国」。2014年にスペイン・コルドバで開催された「International Film Music Festival」で初演されたと聞いて以来、一度生で聴きたいと思っていたのですよ。壮大で美しく、ときにダイナミック、ときにエキゾティック。混声合唱も加わって盛り上がります。ドキュメンタリーというより、『ベン・ハー』のような史劇映画音楽のよう。コンサートを締めくくるにふさわしいスケールの大きな曲であり、力の入った演奏でした。
アンコールは、さだまさしさんと平原綾香さんが再び登場し、『北の国から』のテーマ曲を2人のヴォーカルで。この公演でしか聴けないスペシャルヴァージョンでした。
『北の国から』(1981~2002)の音楽は(劇中音楽も)さだまさしさんの作曲ですが、シリーズの途中からは俊幸さんが書いた曲も使われています。「れいのテーマ」や「ダイヤモンド・ダスト」という曲が俊幸さんの作曲ですね。なので、『北の国から』も俊幸さんのフィルモグラフィに数えられる作品なわけです。
私は初回放送当時からの『北の国から』ファンでもあるので(今は閉館してしまった富良野の「『北の国から』資料館」に行ったことがあるくらい)、このアンコールには感動しました。 ちなみに今『北の国から』のサントラ盤を引っ張り出して解説書を読んでいたら、倉本聰さんがさださんの「風に立つライオン」を「群を抜いた名曲」と褒めてくれたというエピソードが書かれていて、「そこで『北の国から』につながるのか」とパズルのピースがはまったような気がしたのでした。
耳も心もリッチな気分になれた、すばらしいコンサートでした。
あらためて、渡辺俊幸さん、50周年おめでとうございます!
「京伴祭」のアーカイブが配信中
9月18日に京都・上賀茂神社で無観客(配信のみ)にて開催された「京伴祭」のアーカイブがYouTubeで期間限定配信中です。
下記からどうぞ(終了していたらすみません)。
https://www.youtube.com/watch?v=vLuITm5Clos
「京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL-」は作曲家の林ゆうきさんが立ち上げた、サウンドトラック専門の音楽フェス。
今回は「エピソード0」として、無観客・無料にて開催されました。
出演は、
宮崎誠(『ワンパンマン』『SPY×FAMILY』など)
高梨康治(『FAIRY TAIL』『NARUTO -ナルト- 疾風伝』など)
林ゆうき(『僕のヒーローアカデミア』『ハイキュー!!』『ポケットモンスター』など)
の3人。
それぞれの代表作、代表曲をバンドの生演奏で披露するライブなのです。
当日はリアルタイムで観られませんでしたが、アーカイブでじっくり楽しませてもらいました。
これが無料でいいの?と驚く素晴らしい内容。
アニメ音楽やサウンドトラックに興味ある方はぜひご覧ください。
来年、有観客開催されるなら、京都に行きたいなぁ。
アーカイブは期間限定だそう(いつまでかは不明)なので、お早目に。
☆「京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL-」公式サイト
https://kyobansai.com
水木しげるの妖怪百鬼夜行展
もうすぐ閉会してしまう「水木しげるの妖怪百鬼夜行展」へ行ってきました。
「水木しげるの妖怪百鬼夜行展」公式サイト
https://mizuki-yokai-ex.roppongihills.com/
会場は六本木ヒルズ森タワー52階の東京シティビュー。
妖怪が出そうな夕方=たそがれどきをねらって入場。
入ってすぐのエリアでは、スマホにアプリを入れて「妖怪ARカメラ」を起動すると、実景に重なって現れる妖怪の姿を見ることができます。
隠れているのは、がしゃどくろ、ぬらりひょん、火車、すねこすり、アマビエ、一反もめん。
入口すぐのパネルに反応して現れる一反もめんと、窓際に現れるアマビエがちょっとわかりにくいですが、全6体キャッチしました。
アマビエが東京タワーと一緒に撮れるのがいいですね。
ほかにも、境港の水木しげるロードにいるのと同じ妖怪のブロンズ像が展示されていました。
展示の本編は水木しげるの妖怪画。
導入は、水木しげるがいかにして妖怪を描くようになったか、を紹介する展示。 水木しげるの少年時代から戦争体験を経て画業に入る歴史と、水木しげるが集めた妖怪関係の古書が展示されてます。
貴重な古書もあって、なかなか興味深いです。
そのあと、妖怪画をずらりと展示。
漫画原稿などはなく、精細な妖怪画をひたすら並べる「妖怪の森」みたいな趣向です。
水木しげる展は何度か行きましたが、今回は『ゲゲゲの鬼太郎』などの漫画キャラクターはあえて省いて、妖怪と妖怪画にフォーカスした展示になってます。
妖怪画を、水木しげるが参考にしたと思われる古書の妖怪画や地方の仮面の写真などとともに展示したり、妖怪が現れる場所別に展示したりしていて、なかなか楽しめます。
ちゃんと原画を展示しているので、目を近づけると繊細なペンタッチや筆のあと、修正のあとなどが見られるのがたまりません。
会場内には妖怪の大きなオブジェもいくつか展示されてますが、それは撮影不可。
入口のぬりかべのみ撮影可でした。
最後に水木先生のまわりに妖怪が現れるARコーナーがあり、出口へ。
出ると、いい感じに日が暮れてました。
夏の夕涼みに妖怪画を見てひととき、みたいな展覧会。
妖怪初心者から水木しげるファンまで楽しめる内容です。
9月4日までなので、行こうと思ってる方はお早目に。