吉松隆オーケストラ傑作選
3月11日、東京芸術劇場で「吉松隆の〈英雄〉 吉松隆オーケストラ傑作選」を聴いてきました。
私にとって吉松隆さんはアニメ『Astroboy 鉄腕アトム』と大河ドラマ『平清盛』の人ではあるのですが……。
一度、純音楽作品をちゃんと聴きたいと思っていたので、今回は恰好の公演でした。
原田慶太楼指揮、東京交響楽団の演奏。
演目は、
「鳥は静かに… op.72」
「鳥のシンフォニア “若き鳥たちに” op.107」
「タルカス」
「交響曲第3番 op.75」
いやー、よかった。
シベリウス的な「鳥は静かに…」、ポップなリズムも登場する「鳥のシンフォニア」、ELPの名曲をオーケストラ曲にした「タルカス」、重厚で、ときに激しく躍動感に富んだ交響曲第3番。
現代音楽だけど暗鬱なところがなく聴きやすい。それに面白い。
『アトム』や『平清盛』のルーツを確認できた思いです。
若い世代の聴衆が多く見えたのも印象的。物販でスコアを買い求める人もいて、音楽をやっている人なのでしょう。
ミーハーなのでサイン会に並んだら、列が1階から3階まで伸びていて、サインもらうまで30分くらいかかってしまった。
で、吉松さんに「『鉄腕アトム』の音楽大好きです」と言ったら苦笑されてしまった。いや、照れていたのかな。そう思おう。
☆ロビーに展示されていた吉松さんのスコア、ノート類(接写でなければ撮影可と確認して撮影してます)
スターダンサーズ・バレエ団公演「MISSING LINK」
3月3日夜、東京芸術劇場プレイハウスで開催されたスターダンサーズ・バレエ団公演「MISSING LINK」に足を運びました。
蓜島邦明さんが音楽を手がけるモダンバレエ(コンテンポラリーダンス)です。
2階の席に着くと開演前から不思議な音楽が流れている。
見下ろすと、オーケストラピットで蓜島さんがキーボード2台とシンセサイザーを並べて音楽を演奏しています。
ステージには「まずは音楽をお楽しみください」と書かれたプラカードを持った出演者の姿が。
客入れから生演奏というぜいたくな趣向でした。
公演は第1部が蓜島さんの新作音楽によるダンス。
蓜島さんとヴァイオリン(高木和弘)による生演奏をまじえた音楽でした。
蓜島さん得意の怖い音楽かと思っていたら、前衛的でおしゃれ。フランス現代音楽のようなサウンドで驚きました。まさに現代のバレエ音楽と言う感じです。
2部の「Degi Meta go-go」は2002年にヨーロッパで公演して大成功を収めた作品の再演。
蓜島さんの音楽は、機械的なビートをバックに展開するノイズ系音楽。インダストリアルミュージック的な趣もある。
ダンサーの踊りが加わるとなかなかシュールで、リアル『世にも奇妙な物語』を観るようでした。
期待どおり、いや期待を上回るすごい音楽でした。
強烈な音楽体験で、頭くらくらしながら帰りました。
舞台作品の音楽は商品化されないことが多いし、直に体験してこそという面もあります。生で聴けてよかったです。
菅野祐悟 交響曲第2番@サントリーホール
サントリーホールで菅野祐悟さんの「交響曲第2番 “Alles ist Architektur”-すべては建築である」を演奏するというので聴きに行ってきました。
東京交響楽団の第707回定期演奏会。原田慶太楼指揮。
行ってよかった。
さすがサントリーホール。すばらしい音でした。
CDで聴くのとは大違い。
交響曲第2番は「建築」をテーマにした作品。
第1楽章から第4楽章まで、それぞれにサブテーマが割り当てられています。
メインとなるモティーフを提示する力強い第1楽章、躍動的なスペイン風の第2楽章、弦合奏を中心とした抒情的な第3楽章、メインモティーフを反復し、さわやかに雄大に締めくくられる第4楽章。それぞれに聴きごたえがある。
菅野さんは「40分間聴衆を飽きさせない」という純音楽にはめずらしい(?)目標を掲げて作曲に臨んだそうで、そこここに、映像音楽的な耳にひっかかる工夫がほどこされています。2階席で聴いていたので、奥の方でパーカッションが活躍しているようすが確認できました。サウンドトラックみたいに聴こえる部分があるのも楽しいところ。菅野さんが現場でブラッシュアップしてきた技の集大成ともいえます。
東京交響楽団の演奏もすばらしかった。
演奏が進むうちに、オーケストラ全体がひとつの楽器のように聴こえる瞬間があり、うっとりしました。生でオーケストラを聴く醍醐味です。
菅野さんが音で表現しようとした「光」がたしかに見えた気がしました。
プログラムには菅野さんと指揮の原田さん、コンサートマスターの水谷晃さんらとの座談会が掲載されていて、なかなか貴重。
プログラムは東京交響楽団の公式サイトで公開されているので、Webでも読むことができます。
https://tso.futureartist.net/Symphony2301
終演後、ロビーに現れた菅野さんにご挨拶。
思えば、2007年12月に開催された菅野さんの最初のコンサートもここ、サントリーホールの小ホール(ブルーローズ)だったんですよね。
そのときも聴きに行って、初めて菅野さんにご挨拶した記憶があります。
今回は堂々の大ホール。いわば凱旋公演。
菅野さんの音楽を追いかけてきたひとりとして、感無量です。
フィルフィルコンサート「Musical! Musical!! Musical!!!」
2月11日、ミューザ川崎で開催されたフィルフィル(Film Score Philharmonic Orchestra)コンサート「Musical! Musical!! Musical!!!」に行ってきました。
タイトルどおり、テーマはミュージカル映画。
『グレイテスト・ショーマン』(2017)
『アラジン』(1992)
『ノートルダムの鐘』(1996)
『オペラ座の怪人』(1986)
『キャッツ』(1981)
『レ・ミゼラブル』(1985)
『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957)
と80年代以降の新しめの作品を中心にしたセレクト。
休憩を挟んで3時間あまり、充実の内容でした。
ディズニーのアニメ映画『アラジン』『ノートルダムの鐘』は組曲でオーケストラ音楽をたっぷり聴かせるフィルフィルらしい構成。
やっぱりアラン・メンケンはいい曲書くなあ。
ミュージカルの音楽はキャッチーで華やかで踊れる曲が多く、客席も盛り上がります。
いちばん驚いたのは歌手やコーラスグループが次々と登場して、ミュージカルナンバーを歌ってくれたこと。
ミュージカル特集だから当然ではあるのだけれど、これまでのフィルフィルコンサートを聴いてきた私は、「おおーっ」と思いましたよ。
フィルフィルといえば『スター・ウォーズ』やジョン・ウィリアムズなどのシンフォニックな音楽が中心で、コンサートでヴォーカル曲を取り上げることはほとんどなかったのです。
今回はがらっと雰囲気が変わりました。聴衆の顔ぶれもこれまでと違う印象で、新しいファンを開拓したのではないでしょうか。
歌という新たな武器を手に入れたフィルフィルはどこへ向かっていくのか。次回も楽しみです!
日高美子さんライブ「Yoshiko &Shizuka Tokyo X' mas Live」
12月21日、代々木のライブハウス「アルティカセブン」で開催された「Yoshiko &Shizuka Tokyo X’ mas Live」に足を運びました。
『燃えろアタック』エンディング主題歌「お元気ですかお父さん」や『それゆけ!レッドビッキーズ』主題歌「やがて青春」などを歌った日高美子さんのライブです。
日高さんのライブはコロナ禍前はちょくちょく行っていたのですが、ここ数年はご無沙汰でした。
今年は配信でライブを拝見(拝聴)する機会があり、『大戦隊ゴーグルV』の挿入歌「ゴーグルVアクション」(渡辺宙明先生作曲で日高さんが歌った曲)を歌っているのを見て感激したり、「ペリーヌものがたり」や「心のうた」のカヴァーを聴いてじーんとしたりと、楽しませてもらいました。
今回の会場の「アルティカセブン」は、ほどよく小ぶりな会場でステージと客席も近く、アットホームな雰囲気。
クリスマスソングから始まり、日高さん作曲のオリジナル曲やドラマ主題歌、アニメソングなどを、日高さんと伊藤静香さんが気持ちよいテンポで歌っていきます。
「暁に駆ける」は菊池俊輔先生が作曲、牧美智子さんが歌ったドラマ『新・二人の事件簿 暁に駆ける』の主題歌ですが、これを日高さんがギター弾き語りで歌ってくれたのは、ぐっときました。哀愁のあるメロディーをギターの音色が引き立て、昨年4月に亡くなった菊池先生を思い出しました。
日高さんの持ち歌「やがて青春」「お元気ですかお父さん」はオリジナル・カラオケで。最近東映チャンネルで『燃えろアタック』が放送されていて、全話観たばかりなので、「お元気ですかお父さん」が胸にしみます。
ステージでは日高さんが天然ぶりを示すと伊藤さんがすかさずフォローするなど、ふたりの息がぴったりで、笑いが絶えません。
ホームパーティのような温かいライブでした。
最近、日高さんとコンビで活動している伊藤静香さんは、伸びのある高音と歌唱力がすばらしい。配信ライブで初めて聴いたときは驚きました。
それもそのはずで、彼女は1980年に映画『地球へ…』の公開に合わせて開催されたアニメ主題歌コンテストで全国約8000人の応募者の中から準グランプリに輝いているのです。ちなみにこのときグランプリを取ってデビューしたのが山野さと子さん。伊藤さんはデビューには至らず。もったいないなぁ。
今回のライブではその『地球へ…』の主題歌「地球へ…(Coming Home To Terra)」を伊藤さんがソロで歌ってくれて、すごくよかった。オリジナルのダ・カーポにひけをとらないくらい。
次は坂田晃一先生の曲をリクエストしたいです。
楽しい「めちゃんこRock'nRoll」(映画『Dr.SLUMP ほよよ! 宇宙大冒険』の挿入歌)や『百獣王ゴライオン』挿入歌「美しきアルテア」、『十五少年漂流記』主題歌「ラブ・ミー・アイランド」などのレアな曲も聴けて満足。
先ごろ亡くなった水木一郎さん追悼で「バビル2世」も(カラオケで)歌ってくれました。
これは会場も一緒になって盛り上がりましたよ。
ラストはクリスマスソング「きよしこの夜」で締め。
楽しい時間をありがとうございました。
犬夜叉×半妖の夜叉姫 〜時代を越える音楽〜
12月18日、立川ステージガーデンで開催されたコンサート「犬夜叉×半妖の夜叉姫 〜時代を越える音楽〜」を聴きに行きました。
昼夜2回公演の夜の部です。
アニメ『犬夜叉』『半妖の夜叉姫』のサウンドトラックをオーケストラで演奏するコンサート。
http://www.hanyo-yashahime.com/inuyasha_yashahime_concert/
会場に行ったら、客の大半が若い女性で、すごいアウェイ感(笑)。
さすが人気作品。
MCで声優さんが出演しているので、セリフやナレーションが入ったりするのかと思っていましたが…
ガチのオーケストラコンサートでした。
アニメ映像の上映はありますが、ナレーションやセリフはなし。
編曲・指揮は作曲者の和田薫さん。
演奏はオーケストラと邦楽器(和楽器)の混成によるスペシャルオーケストラ。
たっぷり2時間。怒涛の演奏が繰り広げられます。
まだ神戸公演が残っているので、詳細は省きますが...
躍動感みなぎる犬夜叉のテーマ、緊迫した戦いのテーマ、しっとりと抒情的なかごめのテーマや心情曲など、アニメの名場面を彩った曲が次々と登場。
オリジナル・サウンドトラックをもとに、和田さんがこのコンサートのために編曲した楽曲を数曲ずつメドレーにして、組曲のように構成しています。
さながら、生演奏で聴く「組曲 犬夜叉」と「組曲 半妖の夜叉姫」です。
笛、尺八、琵琶、箏などの邦楽器がオーケストラと共演するスタイルは、この作品ならでは。
和田さんの得意とする分野でもあります。
ハープの隣に箏が並んでいるなんて、ほかのコンサートでは見ることのない光景でした。
うまい具合に座った席が邦楽器の目の前だったので、楽曲によって笛とフルート、箏とハープなどが巧みに使い分けられてるのがわかりました。
で、このアニメは妖怪退治ものなので(これも和田さんが得意な分野)、怪異を表現する不気味な曲や妖怪出現の怖い曲、激しい戦闘曲などが多い。
全体の半分以上がそういう曲です。
これが、すごくよかった。
邦楽器と洋楽器がからみあうダイナミックな現代音楽といった趣。
和田さんの師匠・伊福部昭の怪獣映画音楽を彷彿させるところもあったり、和田さんが手がけた『ゲゲゲの鬼太郎』の音楽を思い出させるところもあったり。
和田薫さんの、このジャンルでの集大成という感じです。
しかし、そんな楽曲を、休憩を挟むとはいえ、2時間も演奏するのは、ミュージシャンも指揮する和田さんも大変だったと思います。
全身で指揮する和田さんの姿も鬼気迫るものがありました。
和田薫さん、お疲れさまでした。
すばらしい曲と演奏をありがとうございました!
渡辺宙明 追悼コンサート
12月2日、NHKホールで開催された「渡辺宙明追悼コンサート」に行ってきました。
スタジオミュージシャンとオーケストラの演奏、レジェンド歌手の方々の歌、しょこたん(中川翔子さん)の司会と歌、渡辺俊幸さんの指揮、すばらしかった。
俊幸さん編曲の「ゴレンジャー」と「ギャバン」は先日の「渡辺俊幸シンフォニック・ガラ・コンサート」でも披露されてましたが、本物(オリジナル歌手)が歌うと迫力がひと味違う。
2部のささきいさおさんのプレスリー風パフォーマンスが最高でした。
そして、しょこたんの歌った3曲(「キュア・アクション」「永遠のイクサー1」「ハートフル ホットライン」)はツボをついた選曲と愛情あふれる歌唱で感動。
記念に会場でしょこたんのCDを買いました(宙明ソングではありません)。
出演者、ミュージシャン、スタッフのみなさま、ありがとうございました。
そして渡辺宙明先生、ありがとうございました。
宙明サウンドは永遠です。
ワルツ ~カミーユ・クローデルに捧ぐ~ 第二章
11月13日の夜、恵比寿のスタジオアッシュ(Studio H)で坂田晃一先生が音楽を担当した舞台「ワルツ ~カミーユ・クローデルに捧ぐ~ 第二章」(作・演出:宮本尚子)を観てきました。
女性彫刻家カミーユ・クローデルを題材にした朗読とパフォーマンスと音楽による舞台です。
ロダンの弟子、そして恋人となり、彫刻家として活躍したカミーユ・クローデルは、ロダンとの関係が破綻したのち心を病み、30代から78歳で亡くなるまでを精神病院ですごしました。
その精神病院でのカミーユの後半生が描かれます。
出演者は3人だけ。
カミーユ(木村有岐)と修道女(福田好)、そして歌手(柴田英恵)。歌手は芝居にはからまず、コロスのような役割です。
カミーユと修道女のあいだにもセリフのやりとりはない。歌と朗読とモノローグだけで話が進みます。
タイトルに「第二章」とあるように、カミーユの人生の前半も舞台になっているようですが、そちらは未見。 しかし、第二章だけでも完結した作品になっているので十分楽しめました。
会場はふだんはダンスの練習などに使われている小さなスタジオ。 舞台装置は椅子を4つ並べ、天井から白いドレスを吊るしただけ。 周囲の壁際に観客用の椅子が並べられて、俳優に手が届くくらいの近さで鑑賞するようになっている。
そのため、ものすごい臨場感です。
役者の息づかいや肉体の緊張が伝わってくる。
すばらしかった。感銘を受けました。
カミーユと修道女の人生を間近で観ているような気持ちを味わいました。
坂田晃一先生の音楽もすばらしい。過去の公演では坂田先生自身のチェロを含むストリングスとピアノで生演奏されていたそうですが、今回は会場の小ささや感染対策を考慮してか、録音された音になってました。 それはちょっと残念だったのですが、歌だけは生でした。
美しくもの悲しい旋律と歌声がカミーユの孤独と哀しみを代弁して胸に刺さります。
映画『カミーユ・クローデル』のガブリエル・ヤレド(ヤーレ)による音楽もよかったけど、坂田先生の音楽も絶品。
実はサントラ盤も通信販売されてます。
https://shop.waltzproject.com/items/39831524
そのサントラ盤では過去の公演で流れた男声ヴォーカル(坂下忠弘)による歌が収録されているのですが、今回は女声ヴォーカルによる歌唱。
このほうが劇の主題に合っている気がします。
女声ヴォーカル版のサントラも出してほしいなぁ。
帰り際、坂田先生がいらしたので久しぶりにご挨拶。
お元気そうでなによりでした。
エンニオ・モリコーネ オフィシャル・コンサート・セレブレーション
11月6日、有楽町・東京国際フォーラムAホールで開催された「エンニオ・モリコーネ オフィシャル・コンサート・セレブレーション」の最終公演を聴きました。
モリコーネのコンサートを聴くのは2004年6月のエンニオ・モリコーネ来日コンサート(「エンニオ・モリコーネ in JAPAN」)以来かも。その間に『ニュー・シネマ・パラダイス』シネマコンサートを鑑賞しましたが(これはすごくよかった)、モリコーネ作品を集めたコンサートは聴いてなかったと思います。
別のところで書いたことがありますが、モリコーネは私が映画音楽を聴くようになるきっかけとなった作曲家のひとり。思えば、50年くらいモリコーネを聴いてきたことになります。そして、モリコーネは2020年に91歳で死去。追悼の想いを胸にコンサートに足を運びました。
10列目の左寄りという恰好の席。ピアニストやハープ奏者の手の動き、指揮者の動きもじっくり見られる。音も大きすぎず、偏らず、よいバランスで聴けました。
コンサートのセットリストはモリコーネが生前考えていたもの。
息子のアンドレア・モリコーネが引き継いで、指揮を担当。アンドレアが指揮することもモリコーネの希望だったとか。
オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。
イタリアから、ピアノ(レアンドロ・ピッチョーニ)、ドラム(マッシモ・ダゴスティーノ)、ベース(ナンニ・チヴィテンガ)、ギター(ロッコ・ジファレッリ)、ソプラノ(ヴィットリアーナ・デ・アミーチス)、それに合唱指揮者(ステファノ・クッチ)とサウンドエンジニア(ファビオ・ヴェンチュリ)も来日して、モリコーネの音を再現します。
第1部が高揚感たっぷりの「正義の力」(『アンタッチャブル』)から始まるのが最高。冒頭から気分が上がりました。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『海の上のピアニスト』とおなじみの名作が続いたあと、マフィアを描いたフィルム・ノワール『シシリアン』が登場するのがうれしい。超好きな作品です。
『ある夕食のテーブル』でぐっとおしゃれなムードになったあと、セルジオ・レオーネ監督作品のコーナー。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ウエスト(ウエスタン)』、『続・夕陽のガンマン』『夕陽のギャングたち』からの選曲。ドラム、ギター、ベース、ソプラノが大活躍。
ここまでが第1部。
東京フィルハーモニーの演奏は丁寧だけど、ダイナミックさがいまひとつの感じ。特にマカロニウエスタンの曲はリズムセクションやソロ楽器に負けている…
と感じたけれど…
第2部は驚くほどよくなっていました。演奏よりPAの調整の問題だったのかも?
2部はチェロデュオ「2CELLOS」のステファン・ハウザーが演奏する「エンニオのテーマ」から。これはモリコーネの作品ではなく、ハウザーがモリコーネをトリビュートして書き下ろした新曲です。映像によるハウザーの演奏とステージ上のレアンドロ・ピッチョーニの生ピアノとの共演でした。
2曲目は『ヘイトフル・エイト』のメインテーマ。
この曲では、オリジナル・サウンドトラックのレコーディング風景がスクリーンに映し出され、映像の中のミュージシャンの指の動きとオーケストラの演奏がシンクロするという超絶的な場面が見られました。
『プロフェッショナル』『ニューシネマ・パラダイス』『マレーナ』と人気作品が続いたあとは、「Social Cinema(社会派映画)」のコーナー。
この選曲がなかなか渋い。「美しいメロディ」のモリコーネ目当てで来ている方は意表を突かれたかも。
『アルジェの戦い』『殺人捜査』『ケマダの戦い』はまだしも、『供述によるとペレイラは…』や『労働者階級は天国に入る』は私も映画を観たことがない。モリコーネのベスト盤にもなかなか入らない曲だし(しかしコンサートではたびたび演奏されている)。
シリアスな曲調と緊張感たっぷりの演奏が胸に刺さります。
この並びだと『死刑台のメロディ』は入らないの?と思ったけど、それはあとに取っておかれていたのでした。
最後は『ミッション』のコーナー。
「ガブリエルのオーボエ」「フォールズ(滝)」「オン・アース・アズ・イット・イズ・イン・ヘブン(地上の楽園)」の3曲。
オーボエの妙なる音色、合唱とオーケストラの盛り上がり。締めくくりにふさわしい演奏でした。
アンコールになり、オルガンの前奏が流れ始めた瞬間、『死刑台のメロディ』!と心の中で叫びましたよ。
『死刑台のメロディ』は、中学生くらいの頃、エンニオ・モリコーネを聴き始めて間もない時期に出会った作品(ベスト盤に入っていた)。主題歌「勝利への賛歌」はジョーン・バエズの歌唱が心に響く名曲で、ふと気が付くと口ずさんでいたりします。だいぶあとになってから映画を観て、すごく辛い、考えさせられる映画だと知りました。
余談ですが中島みゆきの「世情」と「勝利への賛歌」が私の中では重なっています。
アンコールではオーケストラと混声合唱で演奏されましたが、ソプラノのヴィットリアーナ・デ・アミーチスが歌ってくれてもよかったのになぁとちょっと思いました。
さらにアンコールは続き、第1部のラストの曲「エクスタシー・オブ・ゴールド(黄金のエクスタシー)」を再演。1部の演奏は物足りなかったけれど、アンコールの演奏はよかった。オーケストラ、リズムセクション、合唱、ソプラノが一体となって怒涛のようにクライマックスになだれ込む。圧巻です。
アンコールの3曲目は「オン・アース・アズ・イット・イズ・イン・ヘブン(地上の楽園)」を再演。スクリーンにはエンニオ・モリコーネの幼い時からのポートレイトが映し出される。あらためて、エンニオ・モリコーネがもういないことを想って、しみじみしました。
よいコンサートでした。
ありがとう、エンニオ・モリコーネ。
2004年の「エンニオ・モリコーネ in JAPAN」のときはオリジナルTシャツなんか売ってましたが、今回の物販はCDのみ。
記念に「モリコーネ・プレイズ・モリコーネ[完全版]」を買いました。以前出たものとは曲順が異なり(コンサート通りの曲順に変更)、ボーナストラックを4曲追加した改訂版です。
渡辺俊幸 シンフォニック・ガラ・コンサート
9月21日に東京芸術劇場大ホールにて開催された「渡辺俊幸 シンフォニック・ガラ・コンサート ~音楽家活動50周年の祝典~」に足を運びました。
すばらしかったです。
堪能しました。
渡辺俊幸さんの映像音楽と編曲作品を中心にしたプログラム。
プロデュースが盟友さだまさしさん。
演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。俊幸さん自身の指揮。
大河ドラマ『毛利元就』(1997)、『利家とまつ』(2002)、朝の連続テレビ小説『おひさま』(2011)と、開幕からNHK作品が続く私好みの選曲。
『おひさま』は劇中曲もメドレーで聴かせて、平原綾香さんが歌う主題歌に続く構成。平原さんの生歌で「おひさま~大切なあなたへ」を聴くのは初めてかも。フルオーケストラをバックにした歌唱が圧巻でした。
さらに、平原綾香さんの代表曲「Jupiter」を俊幸さんによる新アレンジで。導入部にホルストの「惑星」のスコアが織り込まれていて、実にドラマティックで壮大な「Jupiter」になっていました。
続いては先ごろ亡くなった渡辺宙明先生(俊幸さんのお父様)の追悼コーナー。「マジンガーZ」「秘密戦隊ゴレンジャー」「宇宙刑事ギャバン」を俊幸さんの編曲で。歌は洗足学園音楽大学の学生たちによるメモリアル合唱団。「マジンガーZ」は映画『マジンガーZ/INFINITY』ヴァージョン。「ゴレンジャー」と「ギャバン」は全くの新編曲で、ジョン・バリー風のスパイ映画っぽいムードがある「ゴレンジャー」、女声合唱が入って壮大な「ギャバン」と、俊幸さんならではのサウンドと宙明メロディの共演に胸が熱くなります。
1部の最後はNHKドラマスペシャル『大地の子』(1995)の音楽。つい先ごろも何度目かの再放送をしていた名作です。温かく雄大なメロディがオーケストラサウンドに映えます。
休憩をはさんで、2部はさだまさしさんの歌から。「主人公」と「風に立つライオン」の2曲。「風に立つライオン」は短編小説か映画みたいなドラマのある歌で、聴くうちにぐっときてしまいました。
次は俊幸さんが手がけたアニメ音楽のコーナー。『新幹線変形ロボ シンカリオン』(2018)と『宇宙兄弟』(2012)の音楽をそれぞれメドレー(組曲)で。大河ドラマとはひと味違う、アクティブで高揚感のある曲想にわくわくします。『宇宙兄弟』といえばエレキギターのサウンドが特徴なのですが、今回はシンフォニック・コンサートということでエレキはなし。宇宙の広大さと宇宙への憧れが強調された印象で、新鮮でした。
ラストはNHKスペシャル『ローマ帝国』(2004)のために書いた曲を俊幸さん自身がコンサート用に構成・編曲した組曲「ローマ帝国」。2014年にスペイン・コルドバで開催された「International Film Music Festival」で初演されたと聞いて以来、一度生で聴きたいと思っていたのですよ。壮大で美しく、ときにダイナミック、ときにエキゾティック。混声合唱も加わって盛り上がります。ドキュメンタリーというより、『ベン・ハー』のような史劇映画音楽のよう。コンサートを締めくくるにふさわしいスケールの大きな曲であり、力の入った演奏でした。
アンコールは、さだまさしさんと平原綾香さんが再び登場し、『北の国から』のテーマ曲を2人のヴォーカルで。この公演でしか聴けないスペシャルヴァージョンでした。
『北の国から』(1981~2002)の音楽は(劇中音楽も)さだまさしさんの作曲ですが、シリーズの途中からは俊幸さんが書いた曲も使われています。「れいのテーマ」や「ダイヤモンド・ダスト」という曲が俊幸さんの作曲ですね。なので、『北の国から』も俊幸さんのフィルモグラフィに数えられる作品なわけです。
私は初回放送当時からの『北の国から』ファンでもあるので(今は閉館してしまった富良野の「『北の国から』資料館」に行ったことがあるくらい)、このアンコールには感動しました。 ちなみに今『北の国から』のサントラ盤を引っ張り出して解説書を読んでいたら、倉本聰さんがさださんの「風に立つライオン」を「群を抜いた名曲」と褒めてくれたというエピソードが書かれていて、「そこで『北の国から』につながるのか」とパズルのピースがはまったような気がしたのでした。
耳も心もリッチな気分になれた、すばらしいコンサートでした。
あらためて、渡辺俊幸さん、50周年おめでとうございます!